竹本健治『フォア・フォーズの素数」(角川文庫)

表題作のほか13編からなる短編集です。

表題作の「フォア・フォーズの素数」は、入院中の少年がフォア・フォーズという4つの4と四則演算などの記号(作中ではΣやlogが使われています)を組み合わせて数字を作るパズルに熱中し、その中で少年がフォア・フォーズでは表現できない自然数があるのではないかと考えその数字を探す、という話がメインになっています。この作品は、あまり見かけない数学小説であり、また普通の少年の心情をよくとらえた青春小説です。30Pほどの小説ですが、ラストではすがすがしいまでの虚無感と同時に、ミステリー的な「やられた」感を感じることができるのではないでしょうか。

また作中の「白の果ての扉」では、カレーの辛さとそれから受ける衝撃を「あるもの」の色の変化に比例させるといった面白いというか、突拍子もない設定を使用し、「空白のかたち」では「博士の愛した数式」と同様に、ある一定時間がたつと物事を忘れてしまうウェルニッケ脳症をモチーフにした作品を書いています。

竹本氏の短編の特徴の一つとしては、読者に日常の中に紛れ込んだ「歪み」を納得させるだけの文章にあります。SFや非日常の世界を描くのにも、やはりその作品世界にあったリアリティというものが存在すると思うのですが、彼の小説には、作品世界に合ったリアリティ以上の設定や状況を作中に持ち出し、かつそれを読者に納得させるだけの力があります。極端に言ってしまえば「そんな訳ないじゃん」を「こういうのもあるかもなぁ」と思わせるような文章です。

この作品はSF、ホラー、一般小説、シリーズ物短編の4つの章から構成されており、上記に記したもの以外にも面白い、あるいはとんでもない作品が含まれていますので、本を読みたいけど長編は読みたくない、というときに最適です。
(経済学部1年 MM)

フォア・フォーズの素数 (角川文庫)

フォア・フォーズの素数 (角川文庫)