小説

スタンリィ・エリン『鏡よ、鏡』

今回紹介するのはアメリカのミステリ作家、スタンリィ・エリンの作品『鏡よ、鏡』。一応、ジャンルはミステリであるが、その舞台となるのは現実か幻覚かもわからないような「現在」と、主人公が叙述する「過去」である。その二つの舞台はその性質からして客…

パオロ・バチガルピ「ねじまき少女」

本書は2009年度のヒューゴー賞・ネビュラ賞という二大SF賞を受賞するという快挙を成し遂げ、おまけにローカス賞やキャンベル記念賞受賞、タイム誌〈今年の十冊〉に選出されるなどまさに『話題作』を絵に描いたような作品である。しかし、日本の読者のあいだ…

ゲオルク・ハイム『モナ・リーザ泥棒』(河出書房新社)

雑誌『幻想と怪奇』に訳出された衝撃作「狂人」を含むドイツ表現主義作家の短編集。ハイムの世界に善意、救い、希望などというものは一切ない。狂気すれすれの、いや、すでに狂気の領域に突入した鬼気迫る筆致で悲劇を描き上げる。たとえ喜びのきざしが一瞬…

古橋秀行『ある日、爆弾がおちてきて』(電撃文庫)

あたしたちは二種類の時間を生きている。自分で感じる自分の時間と、ほかの人が感じてる(と自分が感じてる)他人の時間の二種類を。自分の時間と他人の時間は、一緒になることも多いのだけれど、きっとでも、一緒にならないことのほうがずっと多い、気がす…

三崎亜記「バスジャック」(『バスジャック』集英社より)

バスジャックにはルールがあるみたい。そしてそのルールにのっとって行われたバスジャックにはロマンがあるみたい。三崎亜記さんは、考えてみればデビュー作『となり町戦争』からずーっと、「かたち」や「きまり」といったものと、その「なかみ」について取…

本多孝好「眠りのための暖かな場所」(『FINE DAYS』所収)

「爬虫類がどうして卵を温めないか、お前、知ってるか?」本多さんの小説はいくつも読んだけれど、少なくともあたしが読んだかぎりでは、全部一人称の視点で語られている。たいていは男性が語り手で、たまには女性も語る。ここでちょっと脱線めいた話を。語…

テッド・チャン「商人と錬金術師の扉」

先日の日本SF大会/ワールドコンのテッド・チャンインタビュー企画で用意した資料。テッド・チャンの最新短編のあらすじ。最後のオチまではばらしていないが、それでも結構物語について説明しているので、実際にに配らなかった。インタビューでは、チャン自…

ジョイス・マンスール『充ち足りた死者たち』(マルドロール)

そもそものはじめ、神様が地中の洞に住み、その双子の兄弟が空に眠っていたころのこと、宇宙はかたちも定まらず虚ろなままで、ただ人類の残存者数人だけが、創造の思考にかきみだされた深みの底の、海を見はるかす「北アフリカ人」ホテルのなかで生きていた…

村上龍『希望の国のエクソダス』

希望の国へエクソダスするのかと思ったら、どうやらそうでもないみたい。日本人作家でもっともノーベル賞に近いといわれる村上春樹とはすでにトラック3週半ぐらいの差がつけられているような気がする村上〈ドラゴン〉龍先生の『希望の国のエクソダス』は、世…

森博嗣『すべてがFになる』

森博嗣の小説の処女作です。ジャンルとしてはミステリーで、あらすじは以下のような感じです。 大学の夏休みのゼミ合宿で、とある孤島にキャンプに行くことになったN大学助教授犀川創平と女子大生西之園萌絵。しかし、その孤島にあったハイテク研究所で2人…

米澤穂信『さよなら妖精』(創元推理文庫)

米澤穂信さんの代表作『さよなら妖精』は、創元推理文庫で買える。ラノベにはちょっと距離を感じるけど、ミステリ仕立ての青春小説を読んでみたいという人にはうってつけ、と言われていたのであたしも手を伸ばしてみた。この物語は一応、ミステリなんだと思…

森見登美彦『太陽の塔』

ああ、恋だなあ。あたしがあなたを好きになると考えてみよう。そんなことは万に一つも起こらないなんて、即座に否定しないで。だいたい即座に否定しちゃったら、あたしに失礼でしょ。で、あたしはあなたを好きになる。あなたの何が好きだとか、どうやって好…

竹本健治『フォア・フォーズの素数」(角川文庫)

表題作のほか13編からなる短編集です。表題作の「フォア・フォーズの素数」は、入院中の少年がフォア・フォーズという4つの4と四則演算などの記号(作中ではΣやlogが使われています)を組み合わせて数字を作るパズルに熱中し、その中で少年がフォア・フォ…

イタロ・カルヴィーノ『見えない都市』(河出文庫)

イアン・ワトスン「絶壁に暮らす人々」、ラリー・ニーヴン「リングワールド」、筒井康隆「平行世界」、星新一「おーい でてこーい」、ボルヘス「バベルの図書館」、山尾悠子「遠近法」、諸星大二郎「塔に飛ぶ鳥」……。「特殊構造世界もの」というジャンルを想…