ゲオルク・ハイム『モナ・リーザ泥棒』(河出書房新社)

雑誌『幻想と怪奇』に訳出された衝撃作「狂人」を含むドイツ表現主義作家の短編集。ハイムの世界に善意、救い、希望などというものは一切ない。狂気すれすれの、いや、すでに狂気の領域に突入した鬼気迫る筆致で悲劇を描き上げる。たとえ喜びのきざしが一瞬見られたとしても、それは読者と登場人物により深い絶望を味あわせんがための道具立てにすぎない。突き抜けた残虐性とあらゆるものの破滅を志向する感覚を前に、黒い笑いを爆発させる者もいればとても通読できない者もいるだろう。秘められた作者の怒りと悲しみに共感して胸がふるえる者もいるだろう。なんにせよ圧倒されることはまちがいない。真の「冥さ」を知りたければハイムを読め。ここより先はない。