衛藤ヒロユキ『魔方陣グルグル』(エニックス)

勇者ニケと魔法使いククリが魔王ギリを倒すまでを描いたRPG風ギャグ漫画。珠玉の作品である。

ただの村人に過ぎなかった主人公ニケが勇者として使命に目覚めてからというもの、彼の心の成長はなんと著しいのだろう。魔法を失敗ばかりしていたククリがニケを想い続けることで強くなっていくさまは、なんと可憐なのだろう。ルナーとして生を受け、いわゆる箱入り娘だったジュジュがニケとククリを見て旅立ちを決意する心情は、幼くもなんと健気なのであろう。カヤやレイドは、敵キャラのくせになんと魅力があるのであろう。

このように良いところをあげつらっていけばきりのない「グルグル」であるが、ガンガンという特殊な雑誌連載であったため一年に一冊程度しか新刊は出ず、終了するまでに約十年を要した。それにも関わらず、なぜ「グルグル」はこれだけ多くの読者の支持を得たのだろうか。思うに、それは「グルグル」がやはり他の漫画とは一線を画す何かを持っていたからではないだろうか。

「グルグル」は単なるギャグ漫画ではない。あるいは、主人公達がひたすら強くなり、最後のボスを倒すことだけを目的とする真面目さだけが取り得の漫画でもない。「グルグル」は思うにその中間を占める存在なのではないだろうか。

「グルグル」は確かに位置付けとしてはギャグ漫画に属すかもしれない。しかしそのギャグはあくまでも、しっかりとした土台に支えられてのものなのだ。その土台はつまり「グルグル」の「ストーリー」であり「本筋」である。そしてその「ストーリー」をコーティングしているのが「ギャグ」である。たまに読者を爆笑の渦に巻き込むギャグであるが、そんなギャグが随所に盛り込まれていても話が脱線しすぎることはなく、読書は安心して読み進めることができる。いわば、ピンと一本張ったしっかりとしたストーリーを、ギャグが螺旋状に取り巻いている。これが「グルグル」の最大の魅力なのである。
ラストの一番大事な魔王ギリとの闘いのときに、ギリの前で踊るキタキタおやじは一体なんのためにいるのであろう?理由などない。いや、あえて言うならば、「それがグルグルだから」という答えが一番適切であろう。(文学部2年 妹)


魔法陣グルグル (16)
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衛藤 ヒロユキ
スクウェア・エニックス (2003/10/22)
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