高橋優子『薄緑色幻想』(思潮社)

散文詩集。この本でわたしたちは、物語がはじまる前の、甘い蜜のようなどろどろしたものにみたされた無音の世界を手さぐりで進んでゆくことを強いられる。淡いけれども、色彩は豊かだ。匂いもある。秘密めいた記憶の底に、優しく、ゆるやかに降下していくかのような心地。そして、存在するのはただただ、「あなた」と「私」。これはつまり、夢。夢そのものではないのか。いとおしく、はかないもの。

跋文は矢川澄子。ある本屋でこの本をなにげなく手にとり、その四文字を目撃した瞬間は、啓示のようなつらぬきだった。