ゼラ泉

ゲオルク・ハイム『モナ・リーザ泥棒』(河出書房新社)

雑誌『幻想と怪奇』に訳出された衝撃作「狂人」を含むドイツ表現主義作家の短編集。ハイムの世界に善意、救い、希望などというものは一切ない。狂気すれすれの、いや、すでに狂気の領域に突入した鬼気迫る筆致で悲劇を描き上げる。たとえ喜びのきざしが一瞬…

ジョイス・マンスール『充ち足りた死者たち』(マルドロール)

そもそものはじめ、神様が地中の洞に住み、その双子の兄弟が空に眠っていたころのこと、宇宙はかたちも定まらず虚ろなままで、ただ人類の残存者数人だけが、創造の思考にかきみだされた深みの底の、海を見はるかす「北アフリカ人」ホテルのなかで生きていた…

山川直人『コーヒーもう一杯』(3)(エンターブレイン)

山川直人の漫画をよむときには、意識して読むスピードをゆるやかにする必要がある。ていねいにめぐらされたカケアミを、ゆっくりゆっくり吟味する。さながら、喫茶店で一杯の美味しいコーヒーを味わうときのように。ときには、苦い話もある。だがふしぎと暗…